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【解説】朝比奈あすか『君たちは今が世界』感想・あらすじ 小学生の悪意と狡さ、そして希望

君たちは今が世界カバー 小説
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“空気を読まない”という希望

そんな閉塞感が漂う物語の中で、宝田ほのか武市陽太 の振る舞いは救いとなっている。ほのかは、他の生徒と違って、空気を読まない態度を貫き通す。他の生徒が机を後ろに向けているときもほのかは同調しない。彼女は、小説では主人公にはならないものの、クラスメートが窮地に陥る場面に現れて彼らを救うという重要な役割を担っている。

例えば、第一章で、文也が利久雄と敏からいじめに近い扱いを受けていることにほのかは気づいていおり、教室で文也が利久雄たちにいじられているところに、「あっち行け」と言われてもそばにいようとする。さらに調理実習で洗剤入りの生地を浜田先生が口に入れようとしたとき、真っ先に止めようとしたのがほのかだった。

洗剤を入れたことについて、利久雄が幾多先生から問い詰められて、実行犯として文也の名前を挙げたとき、「みんなでやったんです」と助け舟を出したのも彼女だった。ほのかの家は貧困家庭のようで、そのことで他の子にからかわれたりもするが、他人の痛みが分かるし、弱い人や困っている人に寄り添う優しさがある。

陽太は、発達障害らしく言動が幼いが、絵を書いたり、折り紙を折ったりといった細かくて集中力を必要とする作業が得意だ。母子家庭で母は、家にいるときはほとんど寝ている。母に頼みたいことがあっても、「一分でも多く寝ていて欲しい」と思いやり、我慢する。一緒に遊ぶ友人がおらず、夏休みでは朝早くから一人で行動する。

学校での引き渡し訓練の日には、母は仕事で迎えにこれないため、陽太はいつも最後まで居残りで寂しい思いをしていた。しかし6年生の引き渡し訓練では、仕事を休んだ母が突然教室に現れた。驚く陽太に母は、その足でラーメンでも食べに行こうという。「それじゃ、今日はすごくいい日だねえ!」と陽太は言い、母は「うん。母さんも今日は陽太と過ごせて、いい日だな」と返す。母と子の互いへの思いが通い合う、感動的な場面だ。

第三章では、ほのかと陽太は互いの優しさを交換する。陽太は、ほのかが困った人がいるといつも手を差し伸べることを知っていて、「看護師みたいだ」とひそかに思っている。ある日、折り紙サークルの大学生と陽太が話しているとき、遠くからそれを見つけたほのかは不審に思い、「いっしょに帰ろう」と声を掛ける。その場で、ほのかは、陽太が折り紙サークルに参加したそうなのを見抜いて、一緒に行くことを提案する。

折り紙サークルに参加する当日、ほのかは、折り紙に自信がなさそうな態度を見せる。陽太はほのかに対して「宝田さんなら、なんでもできる」と2度繰り返す。続く場面がまた感動を誘う。

「じゃあ、やってみる」
光を得たような、少し濡れた目をしてほのかは言った。
「武市、ありがとう」
その言葉を聞いて、陽太は、今日はとってもいい日だと思った

『君たちは今が世界』

空気を読まない二人は、教室では皆から疎まれ、のけものにされている。その二人が互いを思いやって振る舞う場面は、ぎすぎすとした空気が満ちた小説の中で数少ない救いであり、希望でもある。


同じ作者が中学受験に挑む親子の葛藤を描いた小説『翼の翼』の書評は以下を御覧ください。

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