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【解説】白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水 意味・表現技法・文法 

かもめ短歌
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若山牧水の短歌「白鳥はかなしからずや空の青海のあをにもまずただよふ」の解説。この歌をそのまま受け取っても理解したことにはならない。ここで白鳥、海や空は何かの比喩だからだ。では何の比喩なのか。それを考えてみたい。

白鳥しらとりしろとりかなしからずや空の青海のあをにもまずただよふ

若山牧水『海の声』(1908年7月発行)

※白鳥は、「はくちょう」ではなく「しらとり」と読む。

若山牧水の有名な短歌である。ここに出てくる「白鳥」をどう解釈するかで歌の印象が大きく変わる。以下にあるように、「白鳥」は牧水自身であり、当時の恋愛相手(園田小枝子)でもあるという説が知られている。

この白鳥は、作者自身でもあり、当時牧水の愛していた女性でもあるかのような、感情移入がなされている。

窪田章一郎・武川忠一編著『現代短歌鑑賞辞典』(東京堂出版)

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この歌が収められた歌集『海の声』は、語り手「われ」と恋人「君」の恋愛の歌が多い。だから、「白鳥」は作者か恋人(あるいは両方)を表しているということは容易に想像がつく。ただ、これだけでは何も分かったことにならない。

理解するには「われ」と「君」がどのような状況に置かれていたか、「白鳥」が「染まずただよう」とはどのような状況なのか、といったことを解釈する必要がある。それを考える前に、まずは歌の意味と文法、表現技法を整理しておく。

読みと歌の意味

読みは以下の通り。

しらとりは/かなしからずや/そらのあお/うみのあおにも/そまずただよう

以下のような意味になる。

白鳥は、哀しくないのだろうか、いや哀しいだろう。空の青、海の青にも染まらずに漂っている。

後で解説するが「哀しからずや」は反語の意を込めた問いになっている。歌の意をもう少しくむなら「空を飛んでいるときも、海の上に浮かんでいるときも、青に染まらず、白いままの白鳥は哀しくないのだろうか、いや哀しいだろう」となる。白鳥の姿を人に重ねて、心情を想像しているわけだ。

「白鳥」は、いわゆるハクチョウではない。ハクチョウは、淡水の湖などに生息するからだ。海にいる白い鳥であるから、カモメの類だと考えられる。歌集には「鴎(カモメ)」を詠んだ歌も収録されているので、やはり白鳥をカモメとするのが妥当だろう。

冒頭に掲載した写真の鳥はカモメである。頭部や羽に灰色の羽毛が交じるが、胴体は白いので「しらとり」と表現してもおかしくない。

文法

文法と品詞について説明しよう。

「哀しからずや」は、形容詞「哀し」未然形(哀しから)+否定の助動詞「ず」終止形疑問の係助詞「や」。文末の「ずや」には疑問と「打ち消しの疑問、反語」の意味がある。白鳥の心情を推測し自問自答しているので、「哀しくないのだろうか、いや哀しいだろう」となる。

この「哀しから」はカリ活用未然形である。カリ活用は、文語形容詞の活用型の一つで、語尾が「しから・しかり・し・しかる・しけれ・しかれ」と変化する。

「染まず」は、「そまる」という意味の動詞「染む」未然形否定の助動詞「ず」終止形。「染まず」で「染まらない」という意味になる。

「ただよふ」動詞「ただよふ」の終止形。「漂う」の歴史的かな遣い表記である。

表現技法・句切れ

白鳥に人間と同じ「哀し」という感情があると見なしていることから分かるように、表現技法として擬人法を用いている。さらに「哀しからずや」は上で述べた通り反語である。

さらに、通常は「空の青海のあをにも染まずただよふ白鳥は哀しからずや」という語順にするところを倒置法を用いて入れ替えている。

「空の青海のあを」の部分は、空の青、海の青と対になる句を置く対句法である。文法のところで述べたように句切れは、「二句切れ」。

ここまでで説明した表現技法、句切れなどを以下の表に整理した。

表現技法擬人法、、反語、倒置法、対句法
句切れ二句切れ
収録歌集『海の声』(1908〈明治41〉年7月発行)

鑑賞

海と白鳥の心理的距離

ここからは歌を解釈していきたい。『海の声』では、語り手が女性と恋に落ち、結ばれ、失恋するまでのストーリーが展開する。その合間に、語り手が旅した日本各地や故郷についての歌が挿入される構成を取る。女性については詳しい情報はなく、ただ「君」と呼ばれる。

こうした大枠を踏まえた上で、まず白鳥について見ていきたい。「哀しからずや」の歌で、白鳥はどのような意味を担っているのだろうか。周囲の色に染まらない、あるいは染まろうとしない存在として白鳥について、語り手は「哀しくないのか」と想像している。一首だけを見ていても、これ以上のことは分からないので、他の歌も参考にする必要がある。

以下は、歌集『海の声』の中の白鳥と鴎(かもめ)が出てくる歌だ。便宜的に番号を付けた。

(白鳥の歌)
1:白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
2:忍びかに白鳥啼けりあまりにも凪ぎはてし海を怨ずるがごと
3:鳥白しなにぞあれ行くわれ離りゆふべ明るき海のあなたへ
4:海の声そらにまよへり春の日のその声のなかに白鳥の浮く
5:春のそら白鳥まへりはしあかしついばみてみよ海のみどりを
6:白き鳥ちからなげにも春の日の海をかけれり君よ何おもふ

(鴎の歌)
7:あなつひに啼くか鴎よ静けさの権化と青の空にうかびて
8:人どよむ春の街ゆきふとおもふふるさとの海の鴎啼く声

『海の声』

1首目は、すでに述べたように空の色、海の色に染まれない白鳥の哀しみを詠んでいる。2首目は、白鳥が鳴く姿を「海を怨ずるがごと」、つまり海に対してうらみごとを言っているかのようだという直喩で表現している。

5首目は、海水を「ついばんでみよ」とけしかけているが、嘴(くちばし)が水に濡れるだけで何も得られないことは分かっている。語り手はそれを承知でけしかけている。6首では、「白き鳥」が力なく春の海を翔ぶ姿から転じて恋人へと心を向けている。これから分かるように白鳥は、恋人に対する思いを吐露する際の入り口の役割、つまり恋人を導く形象である。「白鳥」あるいは「鴎」と書く時、「われ」は恋人「君」を想起している。つまり「白鳥」は恋人の比喩である。

また、これらの歌で白鳥は海と一体になれない、交われない存在として描かれている。言い換えれば、「われ」は海と白鳥の間に心理的な距離があると意識している。

海と一体となる語り手

では海はどのように歌われているだろうか。歌集から海に関する歌を見てみよう。

1:わがこころ海に吸はれぬ海すひぬそのたたかひに瞳は燃ゆるかな
2:松透きて海見ゆる窓のまひる日にやすらに睡る人の髪吸ふ
3:ともすれば君口無しになりたまふ海な眺めそ海にとられむ
4:無限また不断の変化持つ海におどろきしかや可愛ゆをみなよ
5:手をとりてわれらは立てり春の日のみどりの海の無限の岸に
6:春の海のみどりうるみぬあめつちに君が髪の香満ちわたる見ゆ
7:御ひとみは海にむかへり相むかふわれは夢かも御ひとみを見る
8:君笑めば海はにほへり春の日の八百潮どもはうちひそみつつ

『海の声』

1首目は、語り手(われ)の心が海に吸われたり、反対に吸ったりする感覚が詠まれている。語り手は海と一体になり、境目がなくなっているようだ。

7首目では、恋人が海を見ると、その恋人と向かい合う語り手(われ)は夢のようのような気持ちになり、恋人の目を見つめ返す。8首目では、恋人が笑ったので、海の香りが立ち上り、波の音は沈黙した。7、8首では、海の様子が、語り手の心情と連動していることが読み取れる。

これらから、海は語り手自身の比喩だと考えられる。海と対比される「空」についても海に準ずる存在と見てよいだろう。

恋愛初期の宙ぶらりん状態

さて、ここまでの歌の読解を前提に、もう一度「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」に戻ってみよう。

先に説明した通り、白鳥は、恋人「君」の比喩であり、海は語り手「われ」の比喩である。その白鳥が空の青、海の青に染まらずに漂っているとはどういう状況か。語り手は恋人に気持ちを打ち明けた。しかし、恋人は態度をはっきりさせずにいる。そんな恋愛初期の宙ぶらりん状態と解釈できる。

その恋人の心情を語り手は「哀しくないのか」と自問し、「哀しいだろう」「哀しいはずだ」と自答している。つまり恋人の本心は、語り手の方に傾いているという自分の願望を吐露しているわけだ。恋人の気持ちを身勝手に「哀しいはずだ」と決めつける語り手の態度には、どっちつかずの関係に感じている不安が反映しているのではないか。

こう解釈すれば、「哀しからずや」の歌のすぐ後に置かれ、孤独に耐える心情を詠んだ以下の歌を理解できるだろう。

あな寂しいましめられて黙然もくねんと立てる巨人きよじんの石きざまばや
闇の夜の浪うちぎはの明るきにうづくまりゐて蒼海おほうみを見る
われ寂さびし火を噴ふく山に一瞬ひとときのけむり断えにし秋の日に似て

『海の声』

先に書いたように、この歌集で、語り手「われ」は最終的に失恋する。それは歌集の終盤に次のように詠まれる。

燃え燃えて野火いつしかに消え去りぬ黒めるあとの胸の原見よ
さらば君いざや別れむわかれてはまたあひは見じいざさらばさらば
春哀し君に棄てられはろばろと行かばや海のあなたの国へ

『海の声』

歌集序盤に置かれた「哀しからずや」の歌は、白鳥が結局語り手「われ」の色に染まらず、飛び立っていくという失恋の結末を予告していたと言えそうだ。

参考文献

本林勝夫・岩城之徳編『現代名歌鑑賞事典』(桜風社)
窪田章一郎・武川忠一編著『現代短歌鑑賞辞典』(東京堂出版)
『国文学解釈と鑑賞』1997年2月号・特集「若山牧水の世界」(至文堂)
伊藤一彦『牧水の心を旅する』角川学芸出版

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