良識の届かない場所で
サクマは、「ちゃんとしなきゃいけない」と常に思っていた。しかし、例の暴力衝動がそれを邪魔してきたことから、人生に対して投げやりな態度でもあった。しかし小説の終盤、刑務所での木工作業に習熟する中で、刑務官から評価されることもあり、サクマの中ですこしずつ変化が生まれる。
自分はこれを押しとどめよう押しとどめようとしていたが、付き合っていくこともできたのではないだろうか、と急に思えた。
『ブラックボックス』
わずかに希望を感じさせるが、意識の外からやってくる暴力衝動と「付き合う」ことがどのように可能なのかは説明されない。そんなサクマもいつか出所する可能性を小説は示唆する。「暴力は絶対許さない」という良識は誰も否定しないだろう。しかし、サクマの暴力は、そんな世間の良識が無効であると宣言する。私たちの前には、不気味な暴力がごろりと投げ出されている。
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