【書評】渋谷直角『世界の夜は僕のもの』 美術系専門学校生が体験する90年代サブカルチャー

渋谷直角 世界の夜は僕のものマンガ
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「悪趣味」はリアルでカッコイイ

ミュージシャンの小山田圭吾が、学校時代に同級生をいじめていたことを『ROCKIN’ON JAPAN』と『QUICK JAPAN』で語っていた。それが問題となり、2021年7月19日に東京オリンピック・パラリンピックの開会式の作曲担当を辞任した。この辞任騒動によって、90年代のサブカルチャー、特に「悪趣味」文化が注目された。例えば、例えば、ゴミ漁りについて書いた村崎百郎なども90年代の「悪趣味」文化を担う一人だった。当時のサブカルチャー状況の全体像を描こうとしたら、「悪趣味」文化への言及を避けられない。この作品ではどうか。 レオが専門学校時代に付き合っていた年上のユカリの趣味を通して、悪趣味文化の一端に触れている。

ユカリのセリフ

この会話の後、地の文で「悪趣味」についての解説が入る。

この頃は、「悪趣味」とされるものは
「センスがいい」ものであった

それは「リアル」ということだ
「キレイゴト」や
「前向き」なものは
ウソ臭く…
「死」や「危険」な
匂いのするものがリアルでカッコイイのだと…

ここに当時の「悪趣味」文化のありようが的確に語られている。いつの時代にも、どこの国にもメインカルチャーがあれば、それに対抗する意識からサブカルチャーが生まれ、さらに異端としてのアンダーグラウンドカルチャーが派生する。アングラカルチャーは、そもそも常識やルールに反することが存在意義であり、眉をひそめたくなる表現の集合である。かつてのアングラカルチャーの担い手は、自分たちが世間に受け入れられないことに自覚的であり、地下的な存在としての在り方を守っていた。ところが、90年代にアングラが「カッコイイ」「センスがいい」と見なされ、一般のメディアに露出しはじめた。雑誌の編集者も媒体に先進的なイメージを付加したくてこの流れに乗っかった。

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小山田の問題となった雑誌インタビューもこうした「悪趣味」文化のトレンドの中で成立した。小山田の語ったいじめは、あきらかにルールを逸脱した行為である。それを認識していたからこそ小山田はメディアで得意気に語った。そうすることで自分が「センスがいい」人間だとアピールしようとした。

自らの行為を、武勇伝であるかのように語ってしまった小山田の見識の無さは明らかだ。それを掲載したメディアは、当時の「悪趣味」文化が含む反社会性に無批判過ぎた。小山田も雑誌も調子に乗って「悪趣味」をもてあそんだ報いを20年以上経って受けたわけだ。

この作品は、90年代のサブカルチャーの楽しく懐かしい側面だけでなく、負の部分まで視野に入れており、それによって当時の状況を立体的に描くことに成功している。

※この作品は「週刊SPA!」で2020年9月22・29日合併号から2021年10月12日号まで連載された。カバーのイラストと漫画の画風はまったく異なる。作品の一部を「日刊SPA!」で確認できる。
NetGalleyに掲載された作品を書評した

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