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【あらすじ・相関図】徹底解説「走れメロス」(太宰治)勇者を突き動かしたものとは?

太宰治「走れメロス」人物相関図 メロス、セリヌンティウス、ディオニス王太宰治
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太宰治「走れメロス」のまとめ解説。詳しいあらすじを場面分けして時系列の図に整理したほか、主人公のメロス、竹馬の友・セリヌンティウス、ディオニス王といった主要人物を相関図で示した。さらに読解のポイントや、太宰が参考にしたシラー(シルレル)の詩との違い、時代背景についても解説する。

メロスと親友のセリヌンティウスが、命を掛けて互いを信頼し、それによって暴君の心を動かす――。

「走れメロス」は、このような美談として理解されているのではないか。中学校では国語の教材にこの小説が使われ、約束を守ることの大切さや人を信じることの素晴らしさが指導されているのだろう。

この小説には、そのような内容が確かに書かれている。だが疑問がないわけではない。果たして「友情と信義」だけの物語を太宰は書いたのだろうか。

メロスはディオニス王の暗殺を実行しようとして、捕らえられる。そもそもなぜそんな無謀なことを企てたのか。あまりにも軽率すぎないか。一方のディオニス王は、人を信じられず、孤独の中にいる。それによって人から恐れられている。この二人が出会ったことが物語の発端となる。

ここでは、強い承認欲求を抱えた男(メロス)と権力者(王)の習性という視点から主要人物二人の内面を読み解いていきたい。まずは、あらすじを見ていこう。

あらすじと主な登場人物

小説を8つに場面分けして、あらすじと登場人物を整理した。

場面1:メロス、シラクスを訪れる

羊飼いの青年メロスは、16歳になるの結婚のために必要な品々を買い求めに、村から十里離れたシラクスの町を訪れた。ひっそりとした町の様子に不信を感じたメロスは、若者に理由を聞いた。しかし彼は、答えようとしない。さらに老爺を捕まえ、語気鋭く詰問すると、「王様は、人を殺します」という答えが返ってきた。

シラクスのディオニス王は、周囲の人間を片っ端から殺していたのだ。妹婿や自身の息子、妹、その子供、皇后、家臣のアレキスを殺した。さらに派手な暮らしをしている者に人質を差し出すように命じて、拒めばこれも殺した。その日も6人の命を奪っていたという。原因は、王が人を信じられないことにあった。

事情を知ったメロスは激怒して、「呆れた王だ。生かして置けぬ」と思い定めた。そのまま城に入っていくと、警吏に逮捕された。王の前に引き出されたメロスは、尋問され「市を暴君の手から救うのだ」と自白した。

場面2:3日間の猶予を求め、親友を人質に差し出す

王はメロスを磔にして殺すという。しかし、妹の結婚式を控えたメロスは、村に戻るため3日間の猶予を王に求め、自分の身代わりとして親友、セリヌンティウスを差し出すと約束した。王は、3日目の日没までにメロスが戻らなかったら、セリヌンティウスを殺すことを条件にメロスの提案を了承した。

その後、メロスは二年ぶりに会ったセリヌンティウスに事情を説明。セリヌンティウスは、無言でうなずき、メロスを抱きしめた。

場面3:濁流を泳ぎ、山賊を撃退

メロスはその夜に村へ出発。一睡もせずに道を急ぎ、翌日午前中に到着した。妹と婿に明日結婚式を挙げることを告げた。村人を招いた結婚式を無事に終え、翌朝早くにシラクスに向け走り出した。

道の途中にある川の橋が、前夜の豪雨の影響で流されていた。メロスは濁流に飛び込み、向こう岸までなんとか泳ぎきった。ほっとしたのもつかの間、山賊たちが道を塞ぐ。メロスは相手から棍棒を奪い、三人を倒すと、他の山賊が怯んでいる隙きに、峠を下った。

場面4:疲労から自暴自棄になる

なんとか困難を切り抜けたメロスは疲労に襲われ、動けなくなる。そんな自分が情けなく、このままでは友との約束を破り、友を欺くことになる。そして「ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ」と自暴自棄になり、その場で眠ってしまった。

場面5:希望を取り戻し走り始める

ふと水が湧き出る音が聞こえて、メロスは目を覚ます。水を一口飲むと、「歩ける」と思う。さらに「わが身を殺して、名誉を守る希望」が生まれる。「ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ」と思いを胸に、走り始める。

途中、旅人が「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ」と噂しているのを聞く。メロスは一心不乱に駆けているため、衣服が脱げ落ち、血を吐いた。

場面6:止まれと忠告されても走り続ける

シラクスに近づくと、セリヌンティウスの弟子、フィロストラトスが現れ、間に合わないので走るのを止めるよう、メロスは忠告される。さらに弟子は、刑場に引き出されたセリヌンティウスが、「メロスは来ます」と王に向けて断言したことを伝える。

メロスは、「信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ」と答えて走り続ける。

場面7:刑場で互いを殴る

日没直前に刑場に滑り込んだメロスは、「殺されるのは、私だ」と叫びながら、磔台のセリヌンティウスの足元にすがりつく。それを見た群衆は、どよめいて「あっぱれ。ゆるせ」と声を上げた。

メロスは友を裏切りかけたことを告白し、「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ」とセリヌンティウスに頼んだ。セリヌンティウスは、一度だけ友を疑ったことを告白し、「メロス、私を殴れ」とメロスに命じた。そして二人は抱き合い、声を上げて泣いた。

場面8:王の敗北宣言、少女がマントを差し出す

ディオニス王は自らの負けを認め、「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか」と二人に語りかける。それを聞いた群衆は、「万歳、王様万歳」と歓声を上げる。

群衆の中から少女が現れ、メロスに緋色のマントを差し出すと、メロスは赤面した。

冒頭の図は、人物の相関を示している。下の図は、メロスの行動を時系列に整理したものだ。

メロスの行動を時系列に整理した図

解説:メロスはなぜ王の暗殺を企てたのか

メロスの承認欲求

ここからは、メロスがこのような行動をした動機について解説したい。

小説の冒頭で、メロスはテロリストとして現れる。

「呆あきれた王だ。生かして置けぬ。」

暴政に怯える民衆を見て、メロスは、上に引用した怒りの言葉を口にして王を討つことを決心する。これは紛れもなくテロリストの心情である。

しかしメロスの行動は、テロリストとして見ると疑問符が付くことが多いのも確かだ。武器として短刀を所持しており、王を本気で殺めるつもりなのかと思えば、いとも簡単に捕縛されてしまう。準備も警戒心も足りないと言わざるを得ない。「生かしてはおけぬ」の真意を疑いたくなる。

しかも、友であるセリヌンティウスを身代わりとして王に引き渡している。真正テロリストであれば、仲間を権力者に売るなど断じてあってはならない行動である。

メロスは、王の殺害を目指していたのではなく、別の目的があったのではないか。つまり偽テロリストだったと考えれば、短刀ひとつで、敵の城に単身乗り込んで、簡単に捕まったことも理解できる。では、その目的とは何か。私の考えでは、英雄的な死を選ぶことで名誉を手に入れることである。

メロスは、承認欲求の強い男だ。承認欲求とは「他者から認められたい、自分を価値ある存在として認めたい」と思う欲求のこと。メロスが妹の結婚式の後、夫婦に強い調子で語る言葉にその承認欲求の一端が表れている。

「おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」「メロスの弟になったことを誇ってくれ」

この言葉が示しているのは、せめて偉い男として生きた自分を、誰かに記憶してもらいたいという承認欲求である。名誉欲と言い換えてもいい。

メロスの承認欲求を示す言葉は他にもある。疲労から一度諦めて掛けていた友との約束を、泉の水を飲んで回復し、もう一度果たそうと立ち上がる場面でメロスは自分自身に語りかける。

「メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ」

この時点ではすっかり、王の暗殺という志は消えて、友との約束を守って「正義の士」として死ぬことが目的となっていることに注意したい。

メロスの境遇は、村の牧人。つまり羊飼いである。村で暮らし、一生このまま終わってしまうのかと将来を悲観したとしても不思議ではない。一方、友人、セリヌンティウスは、都会に出て石工になり、弟子を持つほどに成功している。メロスは自分の境遇と比べて、友の成功をうらやんでいるかもしれない。

メロスには両親はいない。妻もいない。唯一の家族である妹は結婚した。もう思い残すことはない。それならば、英雄的に行動して死ぬことで、人々に「正義の士」として記憶されたい。そんな風にメロスは考えたのではないか。

当初の王を暗殺する計画はフェイクに過ぎず、メロスは最初から捕まって死刑を宣告されることを想定していた。そして、友を身代わりとして差し出し、約束の期日までに戻ってくるというドラマを演出するための手段として使ったのだ。

メロスが偽テロリストだったことは、最後の場面にも明らかだ。メロスがセリヌンティウスと殴り合い、友情のドラマを演じた後、王が現れる。ここは、無防備な王がメロスに接近する絶好のチャンスなのだが、メロスは王に向かって剣を抜かない。代わりに少女が差し出すマントを見て赤面するだけだ。「生かして置けぬ」という言葉にはメロスの真実はなかったのである。

解説:なぜ王は人を信じられないのか

権力者の孤独

ここでは、王がなぜ人を信じられなくなったのかを考えてみたい。

最初の場面を振り返ってみよう。メロスは、街で出会った老爺に王が人を殺す理由を問いただすと、「人を、信ずる事が出来ぬ、というのです」という答えが返ってきた。捕らえられたメロスに対して、王は「おまえには、わしの孤独がわからぬ」と語り、続けて打ち明ける。

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」

太宰治「走れメロス」

ここで王は権力者の孤独について語っている。多くの場合、一度権力を手に入れた者は、周囲の敵意にさらされる。王の手から権力を奪おうとする者。味方の振りをして近づく者。権力者は敵と対峙しなければならず、片時も気を緩められない。実際に何者かに暗殺されたり、味方と思った者から権力の座を追われたりする例はいくらでもある。そして、多くの権力者は、自分も誰かを欺いて今の権力を手に入れている。

身内さえも信じない。これは権力闘争の場に身をおいて、勝ち残ってきたものの身についた思考パターンである。つまり、王が人を信じられないのは、それが権力者の習性だからだ

誰も信じられない王は、どのように権力を守るのか。死の恐怖で人々を支配することによってだ。死をちらつかることで人を恐怖に陥れ、従わせる。危険な人物がいれば先手を打って始末する。そのようにして王は権力を守ってきた。

ところが、死をちらつかせる方法が通用しない現れた。メロスだ。メロスは死を恐れない。王の暗殺を企てて単身で城に乗り込んだり、処刑されることが分かっていても、友との約束を果たそうとしたりする。権力者は、こうした死を恐れず行動する人間を最も警戒しなければならない。メロスが暗殺を企てたように、容易に敵に変貌するからだ。

そのメロスが、友を人質に置いて約束の期日までに処刑場に戻ってくるという。王にとってはまたとないチャンスである。「ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない」と強がる男は、土壇場で命が惜しくなり、友を見捨てて逃げ出すにちがいない。そうなれば、市民に友情や約束というものは、死の恐怖の前ではもろくも崩れ去ることをアピールできる。

王にとっては、やはり人は私欲のかたまりなので、決して信じてはいけないという信念を改めて確信する機会になる。

こうして王はメロスを解き放った。戻らないことを期待しながら。

小説の舞台と時代背景

ここからは「走れメロス」の時代背景について解説する。物語は、が古代ギリシア・ローマの伝承に由来するとされる。太宰は直接には後で解説するシラーの詩を参考にした。

小説の舞台であるシラクサは、イタリア半島の南に位置するシチリア島の中心都市である。

下の写真は現在のイタリア・シチリア島 シラクーサのドゥオーモ広場。

イタリア・シチリア島 シラクーサのドゥオーモ広場
WebsiによるPixabayからの画像

小説に登場する王は実在した。デイオニユシオス(ディオニス)一世は前5世紀未にシラクサの将軍となり、後に独裁的な王となった。彼は周辺国と度々戦争したり、南イタリアに領土を広げたりした。彼の死後、息子のデイオニユシオス(ディオニス)二世が王の座を継いだ。父も息子も暴君であり、シラーの詩の素材となった古伝承が、父と息子どちらのものなのかはっきりしないとされる。

原詩と太宰の創作

太宰は、「走れメロス」を書くに際して、ドイツの詩人、フリードリヒ・フォン・シラー(1759-1805)の詩「人質(Die Bürgschaft)」を素材とした。物語の流れは、基本的に詩に沿っており、その他の細部も誌から引用、転用をしている。

シラーの詩「人質」の冒頭を引用しよう。

暴君ディオニスのところに
メロスは短劍をふところにして忍びよつた
警吏は彼を捕縛した
「この短劍でなにをするつもりか? 言へ!」
險惡な顏をして暴君は問ひつめた
「町を暴君の手から救ふのだ!」
「磔になつてから後悔するな」-

「私は」と彼は言つた「死ぬ覺悟でゐる
命乞ひなぞは決してしない
ただ情けをかけたいつもりなら
三日間の日限をあたへてほしい
妹に夫をもたせてやるそのあひだだけ
その代り友逹を人質として置いてをこう
私が逃げたら、彼を絞め殺してくれ」

小栗孝則訳「人質 譚詩」

詩はいきなりメロスが捕縛されるところから始まっている。小説の方は、シラクスの町が静まり返っている様子やメロスが町人から王が家族や家臣を殺していたことを聞き出している。これらは太宰が加えた要素である。メロスが王の暗殺を企てた理由として王の暴虐ぶりを明確にしたかったと思われる。また、妹の結婚式の場面は、詩に書かれていない。妹夫婦に自分のことを「誇ってくれ」と語りかける場面も太宰の創作である。

小説には、村から町へ戻る途中、メロスが山賊に襲われる場面がある。その後、メロスは、「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」と語る。この言葉は、詩にはない。太宰は、王がメロスの帰還を恐れて、山賊を派遣したという設定を加えたかったと考えられる。

参考文献

五之治昌比呂 『走れメロス』とディオニュシオス伝説 西洋古典論集
石橋邦俊 シラーの “Die Bürgschaft Ballade” と小栗孝則訳「人質 譚詩」 九州工業大学大学院情報工学研究院紀要. 人間科学篇 26


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