夏休みの宿題の定番である読書感想文。文章を書くのが苦手な人にとってこれほど気が重い課題はないでしょう。
読書感想文を悩まずに書くコツは、小説の登場人物と自分を比較することです。自分と登場人物の似ているところ、逆に違うところに着目し、それぞれについて、自分の経験と照らし合わせつつ、考えや印象を言葉にします。そうすることで、自分にしか書けない文章になります。
そのためには、自分と何かしら共通点のある人物が登場する小説を選ぶ方が良いでしょう。この記事では、これまでに当ブログで解説した書籍の中から、読書感想文に適した4冊と参考資料1冊を紹介します。
今回取り上げた書籍の内容と対象は以下の通りです。
書籍名 | 内容 | 主な対象 |
朝比奈あすか 『君たちは今が世界』 | 小学6年生の悩みを描いた群像劇 | 小学生、中学生、 友人関係に悩む人 |
朝比奈あすか『翼の翼』 | 中学受験に挑む親子の物語 | 小学生、中学生、 中学受験経験者 |
宇佐見りん『くるまの娘』 | アルコール依存の母、暴力的な父を持つ 女子高校生の物語 | 中学生、高校生、 親子関係に悩む人 |
南杏子『いのちの停車場』 | 終末期医療(ターミナルケア) に携わる女医の物語 | 中学生、高校生、 医療の道を志す人、 余命わずかな家族がいる人 |
太宰治『人間失格』 | 周囲の顔色をうかがい、意見を主張できない 男の転落人生 | 中学生、高校生、 キャラクターを演じてしまう人 |
『考える読書 青少年読書感想文 全国コンクール入賞作品集』 | コンクール入賞作品集 | 小学生、中学生、高校生、 感想文を上手に書きたい人 |
以下、それぞれを簡単に説明します。
朝比奈あすか『君たちは今が世界』
『君たちは今が世界』の登場人物は、ある小学校の6年生クラスの子どもたち。このクラスは学級崩壊状態で、担任の先生を馬鹿にしていて、一部の生徒は従業中に席から離れて歩き回っている。そんな生徒でも一人ひとりを見ていくと、それぞれが悩みを抱えている。
小説は何人かの生徒にスポットを当て友人や親子との関係、心の葛藤を詳しく描く。ある男子生徒は、友だちに嫌われたくないから、授業の妨害に加担し、後で後悔する。勉強のできる女子生徒は、「ガリ勉」と言われるのが嫌で、教室ではできないふりをしている。また別の女子生徒は、父が海外赴任、母は毎晩のように飲み歩いて、子どもの面倒を見ないという家庭環境で暮らし、自分に関心を払わない親を持って苦しんでいる。
女子グループの対立や男子グループのなかの力関係、教師への反発など教室の日常がリアルだ。登場する生徒たちの中に、きっと自分に似た子が見つかるはず。そして、自分がその生徒の立場だったら、どう考え、行動するかを考えれば、良い感想文が書けるだろう。
詳しい解説記事はこちら↓
【解説】朝比奈あすか『君たちは今が世界』 小学生の悪意と狡さ、そして希望
朝比奈あすか『翼の翼』
『翼の翼』は有名私立中学の受験を目指して塾に通う少年、翼と親が困難を乗り越えて、合否発表の日を迎えるまでの物語。
成績が上がらない翼が、塾のテストでカンニングをしたり、それを知った母は、激怒して「塾も受験も、全部やめなさい」と叫ぶ。怒りを抑えられない母は、塾のテキストを投げつける場面もある。自宅では父が勉強を教えるが、翼のできなさに腹を立てて、手を上げる。次第に追い詰められた翼は、黙って家を出てしまう。
小説には、受験するため塾に通うものの、挫折して受験を諦める親子も出てくる。
中学受験を経験した人、あるいはこれから受験する人はきっと共感できる内容だ。翼の家庭ほど深刻な状況ではないとしても、自分にもこれに近いことが起こっていたのではないか。中学生であれば、当時自分の経験や気持ちと翼のそれとを比較しながら、感想文を書くと良い。
さらに当時、親の気持ちを理解できていたか、翼の親と自分の親の似ているところや違うところがあるか、などを書いていけばすぐに文字数がいっぱいになりそうだ。
詳しい解説記事はこちら↓
【書評】朝比奈あすか『翼の翼』 中学受験に潜むワナ
宇佐見りん『くるまの娘』
『くるまの娘』は、両親が原因で不登校になった女子高校生、かんこが、親との関係に悩みつつも、親と暮らすことを選び、自分の居場所を見つけて回復へと歩みだす物語。
母はアルコール依存で、父は一度火がつくと暴力をコントロールできない。このような親がいる場合、機能不全家族と呼ばれ、そうした家庭で育った子供は自尊感情が低くなるなど、精神的な問題を抱えることが多い。
親との関係に悩んでいる人、身近にかんこの親に似た大人がいる人などは共感できるだろう。かんこには兄と弟がいて、それぞれ親との関係に悩み、かんこと異なり、親と別居する道を選ぶ。特に兄とかんこの、それぞれの考え方と、自分の意見を対比させれば、感想文を書きやすいのではないか。
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【解説】宇佐見りん『くるまの娘』アダルトチルドレンの居場所
南杏子『いのちの停車場』
終末期医療(ターミナルケア)の現実をテーマにした小説。終末期医療とは、余命わずかとなった患者に提供される医療で。患者とその家族の意向を踏まえて、身体的・精神的苦痛を軽減するための措置が取られる。
小説では、患者本人や家族が延命を望まず、治療を拒否したり、安楽死を希望したりするするケースが描かれる。主人公は、六十二歳の女性医師。以前は、救急医療の最前線にいたが、あるきっかけで終末医療に携わることになる。患者の命を救うために最善をつくす従来の医療と終末期医療の違いに戸惑い、悩むが、職場の仲間に助けられ、患者やその家族と触れ合う中で、終末期医療の重要性に目覚めていく。
医学を志す人や余命がわずかな家族のいる人が読めば、医者と患者のあるべき関係や命の尊厳というテーマについて深く考えるきっかけになるだろう。
吉永小百合の主演で映画化もされた。小説と映画を合わせて鑑賞することで理解も深まるはずだ。
詳しい解説記事はこちら↓
【解説】南杏子『いのちの停車場』 親が「死にたい」と言うとき
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太宰治『人間失格』
『人間失格』の主人公、葉蔵は、いつも周りの顔色を気遣って、喜ばせようとおどけてみせるタイプ。また自分の意見や考えを主張せず、後で後悔することが多い。このような性格から、葉蔵は、何度も騙され、裏切られる。そのことに傷つき、自殺未遂を繰り返し、破滅していく。
「本当の自分」とは違うキャラクターを演じてしまう人、常に空気を読んで行動してしまう人、そしてそのことに悩んでいる人であれば、葉蔵の物語に共感するだろう。これまでの自分の行動を思い出し、葉蔵のしくじり人生から何を学んだのかを書けば、良い感想文になるはずだ。
詳しい解説記事はこちら↓
【あらすじ・相関図】5分解説『人間失格』なぜしくじった?太宰治の代表作
『考える読書 青少年読書感想文全国コンクール入賞作品集』
読書感想文をどう書けばよいか分からずに悩んでいる人におすすめしたいのが『考える読書 青少年読書感想文全国コンクール入賞作品集』。
小学生から高校生までのコンクール入賞作品を集めたもので、書き方や本選びの参考になる。書き出しの工夫や文章の展開、あらすじの書き方などを知れば、それほど悩まずに書けるかもしれない。
読書感想文の書き方については以下の記事に書いた。
入賞作品に学ぶ読書感想文の書き方 「私語り」から本選びへ 3つのポイントでもう悩まない
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