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【まとめ】毒親・アダルトチルドレンが登場する小説5作品『くるまの娘』『少女を埋める』『ブラックボックス』ほか 

アダルトチルドレンが登場する小説小説
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毒親・アダルトチルドレンが登場する小説の中から5作品を選んで、簡単な解説を付けた。親との関係に悩んでいる人、生きづらさを感じている人にすすめたい。

ここしばらく最近出版された小説を続けて読んでいるが、毒親アダルトチルドレンと言える人物が登場するものが多いことが気になっていた。小説の中で毒親あるいはアダルトチルドレンと明示されるわけではないが、あきらかにその傾向を示している。

日常的な暴力や虐待、暴言、アルコール依存などの問題を抱えた親のことを毒親という。また毒親に育てられたのがアダルトチルドレンである。アダルトチルドレンは、ある時点までは自分たちの家族が、機能不全家族であると認識していないまま成長する。しかし、どこかで親の異常さに気づいて苦しむことになる。

ここで紹介する小説では、こうした毒親に育てられた人物が、自分の家族の異常さを認識し、その影響に苦しみながらも、克服して生きていくプロセスが描かれる。

小説家が、こうした主題を選ぶのは、個人的な理由もあると思うが、現代の人々にとって切実な問題であることを直感していることが大きいと考えられる。アダルトチルドレンという言葉が1990年代以降、毒親が2000年頃から日本で広く知られるようになったのも、そうした背景があると考えられる。

ここでは、最近読んだものの中から、毒親、アダルトチルドレンが登場する小説5作品を選んで、解説を付けた。

宇佐見りん『くるまの娘』

主人公のかんこは、女子高校生だが、学校を休むことが多い。原因は父と母にある。父は、突然理性を失って暴力を振るい、暴言を吐く。母は、隠れて酒を飲み、酔って泣いたり、暴れたりする。分かりやすい毒親であり、機能不全家族である。彼らに育てられたかんこは、アダルトチルドレンである。

かんこには、アダルトチルドレンの特徴を示す言動が見られる。その一つが自己否定の傾向。かんこは、学校に行こうとすると体が動かなくなるが、そんな自分を「あんなに期待をかけて育ててくれたのに、たいへんな思いをして学校にいれてくれたのに、できそこないの人間に育ってしまった」と責める。
 
また、かんこは酔って泣く母のことを励ますのが自分の役割だと自認している。このように親の代わりに、子が家族の面倒を見ようとするのもアダルトチルドレンに見られる行動だ。

このような状況に置かれたかんこは、どうやって生きづらさを克服することができるのか。小説の後半でその道筋が示される。

※詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【解説】宇佐見りん『くるまの娘』アダルトチルドレンの居場所


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桜庭一樹『少女を埋める』

主人公の冬子は、母と折り合いが悪く。この7年間、実家に帰っていない。母との関係が悪くなった理由は、暴力だった。母は「家庭という密室で子供に暴力をふるうこともあった」

この暴力は世代間連鎖によるものだ。母は祖母から暴力を受けていた。その祖母は、継母から虐められていた。毒親に育てられるた子は、将来自分も毒親になりやすいということだ。

そんな冬子は、父の病状が悪いため、帰郷することになった。7年ぶりに親子で対面する。冬子と母は、どことなくよそよそしいものの、衝突することもなく、冬子は父の葬儀を終えて東京に戻ってきた。しかし、故郷から戻ると「自己肯定感、穏やかで幸福な気持ち」が消えてしまった。さらに「自尊感情をためた袋に穴が空き」、故郷に落としてしまったと感じる。

子ども頃の冬子は自己肯定感自尊感情が乏しく、不幸な気持ちを抱えて生きてきたのだろう。自己肯定感や自尊感情を抱けないのは、アダルトチルドレンの特徴である。

東京に出て小説家となって成功した冬子は、自己肯定感と自尊感情を手に入れ、幸福な気持ちで生活していた。しかし、母と直接対面した数日間で、昔の精神状態に戻ってしまったのだ。

それでも冬子は、東京に戻り、知人から助けられながら、少しずつ回復していく。

※詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【作品評】桜庭一樹「少女を埋める」 母と共同体への復讐譚
※「少女を埋める」をきっかけとした論争についての解説は以下をご覧ください。
桜庭一樹・鴻巣友季子論争まとめ あらすじと解釈は分けられるか


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九段理江『Schoolgirl』

主人公「私」は、主婦で14歳の娘がいる。「私」と娘の関係はあまりよくない。「私」は幼い頃に母親から暴力を受けていた。さらに四六時中酒に酔っている母親から罵倒された。まさに毒親でる。当時の辛い記憶が大人になった今でもフラッシュバックする「私」は、典型的なアダルトチルドレンである。

「私」は暴力の世代間連鎖を警戒している。そのため、スマートフォンに「今日も手をあげなかった?」という通知が毎日届く設定にしている。そうした工夫でなんとか暴力を抑止し、毒親になることを防いでいる。

虐待される不幸な境遇だった反動か、「私」は過剰に教育熱心なところがあり、娘を英語を使う保育園に通わせた。そのおかげで娘は、英語を使いこなし、今は社会問題へ強い関心を持っている。ところが娘は、「私」の教育熱を負担に感じており、日本語と英語という2つの言語の間で分裂する自我を抱えて戸惑っていた。また社会問題に関心の薄い「私」を軽蔑していた。

ある日、娘は「私」のクローゼットにある蔵書の中に太宰治の小説「女性徒」を発見。それ読むことで、母を理解する手がかりをつかむ。

アダルトチルドレンの母と、その母を見下しているところがある娘が、一つの小説を通して関係を改善する方向に進むところに未来を感じさせる。

※詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【解説】九段理江『Schoolgirl』 正義、あるいは美しく生きること


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砂川文次『ブラックボックス』

主人公のサクマは、暴力衝動をコントールできない。そのため学校や職場ですぐに問題を起こしてしまい、一つのところに長く続かない生活を送ってきた。

その暴力は常軌を逸していて、ちょっとしたきっかけで逆上し、理性は吹っ飛んでしまい、暴走が始まる。ある時、自宅に来た税務調査官に暴行を働き、その勢いで偶然遭遇した警察官2人にも襲いかかって負傷させる。結局逮捕され刑務所に収監される。

サクマと両親の間には、会話が一切なく、たまに会話があっても「最後は怒鳴り合いと取っ組み合いになってしまう」。サクマにとって家は暴力的な場所であり、決して安心できなかった。やはりサクマもアダルトチルドレンである。

詳しいことは書かれているわけではないが、サクマは両親に愛されずに育ち、暴力が日常的にある環境だったと推測できる。そのことがサクマの中に暴力衝動を植え付けたと考えられる。

※詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【書評】砂川文次『ブラックボックス』 暴力に取り憑かれた男の人生


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太宰治『人間失格』

最近の小説ではないが、『人間失格』の主人公、葉蔵もアダルトチルドレンである。彼は裕福な家庭に育ったが、東京で議員をしている父は家庭内では絶対的な存在だったらしく、葉蔵は父の機嫌をそこねることを極度に恐れていた。また同居していた女中や下男から性的虐待を受けていたことも葉蔵の心の傷になっていたと考えられる。

そのため、葉蔵は自分の言動に、少しも自信を持てず、イヤな事を、イヤと言えない性格だった。拒絶の意志を明確に表現できず、相手の意向に合わせてしまいがちになることは、アダルトチルドレンの特徴として知られている。また葉蔵は、家族を含めた周囲の人間のことが理解できなかった。そのため周りに人がいると、必死になって面白いことを言ったり、滑稽な行動をしてお道化て笑わせていた。このような「ピエロ役」を演じるのもアダルトチルドレンの特徴の一つである。

大人になって、葉蔵はアルコールや薬に依存するようになる。さらに自殺未遂を繰り返す。これはアダルトチルドレンに特有の自己処罰の傾向によるものと考えられる。

葉蔵は、アダルトチルドレンとしての生きづらさに苦しんだ末、友人・堀木に騙されて精神病院に入院することになるのである。

※詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【あらすじ・相関図】5分解説『人間失格』なぜしくじった?太宰治の代表作


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【参考文献】
斎藤学『アダルト・チルドレンと家族』(学陽書房)
信田さよ子『「アダルト・チルドレン」完全理解』(三五館)

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