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【解説】入賞作品に学ぶ読書感想文の書き方 私語りから本選びへ、3つのポイントで悩まない

読書感想文の入賞作品を集めた『考える読書』カバー中学受験
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良い読書感想文の条件。それは、冒頭に「自分の体験」を書くことです。 青少年読書感想文全国コンクール入賞作品を読んで、上手に書くための3つポイントと読書感想文の型(テンプレート)を考えました。これらを理解しておけば、「何を書けばいいのか分からない」「どう書いたらいいの?」といった悩みは解消し、すらすら書けるはずです。


小学4年の娘が、夏休みの宿題として出された読書感想文を書いていました。彼女が選んだのは『長くつ下のピッピ』(アストリッド・リンドグレーン・著、岩波少年文庫)。親としてひとこと助言をしたいと思ったものの嫌がられるが目に見えているのでぐっと堪えます。

私は読書感想文が苦手でした。そのため、あらすじや登場人物についての情報をつらつらと書いて原稿用紙を埋めたものです。我ながらつまらないことをしているという意識はあったのですが、他にやり方が思いつきませんでした。そもそも、学校で上手な感想文の書き方を教えられた記憶がありません。これでは仮に求められても、娘に有効な助言を与えられないでしょう。

どんな読書感想文が評価されるのか。それを知るために手に取ったのが、青少年読書感想文全国コンクール入賞作品を掲載した『考える読書』(毎日新聞出版)。 まさに評価された読書感想文の実例集です。『考える読書』 は毎年発行され、2021年4月発行の最新版(第66回)には、110作品が収録されています。

読書感想文とは「私語り」の文芸である

全国の小・中・高校から集められた応募作品はなんと約200万。その中から選ばれた入賞作だけあって、読ませるものが多いです。中には感動的な作品もあります。

これらの入賞作品は、私が想像していた読書感想文のイメージと大きく異なっていました。

私は、読んだ本についての感想を中心に書くのが読書感想文だと思っていたのです。ところが、入賞作品では、主役は「私語り」であり、本の内容紹介や感想は、その私語りを引き立てるための脇役に過ぎません。私語りとは、自分の境遇や体験のことです。つまり、読書感想文は、まずもって自分のことを語り、そんな自分が本から感じたこと、学んだことを語る文芸なのです。本の内容を詳しく、あるいは分かりやすく説明することの優先順位は低いのです。

悩まずに書くための3つのポイント

今回は、小学校低学年の受賞作品を分析して、評価される読書感想文を書くためのポイントを考えました。ポイントは以下の3つ。

・ポイント1 自分の体験をまず語る
ポイント2 本の内容紹介は必要最小限
ポイント3 「面白そう」「簡単そう」で本を選ばない

具体例を通して、これらのポイントについて説明します。

ポイント1 自分の体験をまず語る

小学校低学年の部(一年・二年生)で最優秀作品に与えられる内閣総理大臣賞を受賞した「パパからの贈り物」(一年 小山薫)の書き出しはこうです。

 ぼくのパパは6がつにびょうきでてんごくにいきました。もうパパにあえなくなってかなしくてなみだがいっぱい出ました。

「パパからの贈り物」(一年 小山薫)

いきなり衝撃的な事実を提示して読み手の心をつかむことに成功しています。小学校1年生ながら見事な私語りです。

対象書籍は、スーザン・バーレイ『わすれられないおくりもの』(評論社)。1986年に発行された絵本で、物知りのアナグマが死んだことで、森の動物たちがアナグマの教えてくれた知恵や工夫に気付くという内容です。自分の境遇に対して適切な本を選んでいます。

小山さんは、内容を簡潔に紹介しつつ、自分がパパから自転車の乗り方を教えてもらったことや一緒にカブトムシを育てたことなどを振り返ります。そして、もぐらの「おしえてもらったことはおくりもの」という言葉を紹介し、「ぼくはめにみえないおくりものあるということをはじめてしりました」と自分が得た学びを記します。自分の経験を重ねられる本を選び、そこから学び、生きる力に変えていることを、800字以内という文字数制限の中で 分かりやすく表現しています。

次点の文部科学大臣賞を受賞した「地しんの時間と約束の5分」(二年 本多祐実香)は、課題図書のリズ・ガートン スキャンロン他『ながーい5ふんみじかい5ふん』(光村教育図書)の感想文です。同じ5分でも状況によって長く感じたり、短く感じたりすることを、いくつものエピソードを通して伝えるという内容の絵本です。感想文は次のように始まります。

わたしのながーい5分は、あの地しんの5分です。わたしの住む安平町は、おととし、大きな地しんがありました。

「地しんの時間と約束の5分」(二年 本多祐実香)

本多さんは、2018年9月に発生し、震度7を記録した北海道胆振東部地震に被災しました。書き出し以降、地震の状況、実際に揺れたのは15秒だったこと、母が自分と弟に覆いかぶさって守ってくれたこと、陶芸家である母の作品がすべて割れたこと、赤ちゃんの頃、母がおんぶしてろくろを回していた5分間の動画が残っていることなどを書いていきます。長く感じた地震の15秒とあっという間に終わる動画の5分。この体験を本のコンセプトと重ねることで、読書感想文として成立させています。あるいは、地震と家族のことを語るために、本から受け取った体感時間というコンセプトを借りているという見方もできます。

感想文の中で、本の内容について直接言及したのは、終盤に出てくる「時間はこの本の通りいろいろあるんだよね。不思議だね。」の一文のみ。それ以外は、すべて私語りで通し、最後は「陶芸家になるゆめ」を語って締めくくっています。なるほどこういうスタイルの読書感想文もあるのかと感心しました。

これらの受賞作を読むと、読書感想文はまず、「私」の体験を強く押し出すことが重要であり、その体験を照らし出す素材として本を利用するというスタンスが評価されることが分かります。主役はあくまでも自分の体験、本は脇役なのです。

これらの読書感想文はどちらも、かなり深刻で切実な体験を語っています。誰もがこうした体験を持っているわけではないでしょう。そのような場合どうすればよいのか。入賞作品の中には日常的な体験から書いた読書感想文もあります。

ポイント2 本の内容紹介は必要最小限

毎日新聞社賞を受賞した「おさがりはすてき」(一年 米田壮助)は、7人兄弟の4番目として生まれ、いつも兄から服や靴をもらってきた体験から始まります。

ぼくは、七にんきょうだい。そして、ぼくは、ちょうどまんなかの四ばんめ。おさがりなんてあたりまえ。

「おさがりはすてき」(一年 米田壮助)

続けて、クラスメートが新しい学校の道具を持っていて、自分はおさがり。それでも兄が使ったものをもらえることが「うれしい」と感じています。その後、いきなり本の好きな場面の説明が入ります。

このほんでぼくがいちばんすきなばめんは、男の子がなっちゃんにこえをかけたばめんだ。なっちゃんは、おさがりのものさしをはずかしくてだせなかったけど、男の子がこえをかけてだせるようにたすけたからだ。

「おさがりはすてき」(一年 米田壮助)

対象書籍は、くすのきしげのり・作、北村裕花・絵『おさがり』(東洋館出版社)。姉のおさがりを 恥ずかしく感じるなっちゃんに、先生がおさがりの思い出を話して、物を大切にする心を伝えるという内容です。しかし、米田さんは、あらすじや登場人物について一切説明しません。本を選んだ理由も書きません。自分以外の人が、この本について知らないことなど気にしないところが、すがすがしいほどです。

続けて米田さんは、本を読んで、「おさがりってすてきだ」と再認識したことを語ります。おさがりは思い出であり、宝物であると考え、弟たちにもおさがりをあげたいと言います。米田さんが、兄や姉に憧れると同時に、弟を大切にしている気持ちが伝わります。

米田さんは、おそらく自分のおさがりに対する思いがまずあり、それを書くための素材としてこの本を選んだのでしょう。だから、本の内容に引きずられず、自分の思いを伝えるために必要な部分だけを切り取ることができたのです。そして無駄な説明をいっさいしない。先述の「地しんの時間と約束の5分」もそうでしたが、字数制限のある読書感想文で、自分の思いを明確に表現するには、これぐらいの大胆な書き方が必要だと思います。

ポイント3 「面白そう」「簡単そう」で本を選ばない

読書感想文の対象書籍を選ぶとき、「面白そう」「読みやすそう」という理由で選んでいないでしょうか。それが上手に書けない原因になっているような気がします。この場合、感想文の主役が本になってしまい、どうしてもあらすじや登場人物について詳しく説明したくなります。読み終わったとしても、「楽しかった」「面白かった」「悲しかった」といったありきたりな感想になりがちです。

これまで書いてきたように、読書感想文で大切なのは「私語り」、つまり自分の体験です。順序としては、まず自分を振り返ってみて、書いてみたい体験を考えます。切実な体験や家族のこと、身の回りで起きた事件、日常で気なっていことなどから選ぶと良いでしょう。次に、その自分の体験に近い内容が書かれた本を選びます。

本の内容紹介は1、2行程度の要約で十分です。その後、好きな場面などを説明する際、必要に応じて加えます。繰り返しになりますが、内容紹介に文字数を割くより、自分の体験を具体的に説明し、そこで感じたこと、考えたことを書くことが重要です。その感じたこと、考えたことを前提に、印象に残った場面や言葉を引用します。

感想文のまとめは、本から得た学びや気付きを整理し、今後にどう生かしたいかを記すとそれなりに格好がつきます。

読書感想文の型(テンプレート)

ここで説明した読書感想文の型(テンプレート)を整理すると以下のようになります。

書き出し(自分の体験、多めに書く)
     ↓
・印象に残った場面や言葉の引用とそれについての自分の考えや思ったこと(あらすじや登場人物の説明は最小限。自分の体験と関連させて考えを書く)
     ↓
・まとめ(自分の体験と関連させて、学んだこと、気付き、今後にどう生かすかを書く)

夏休みももうすぐ終わり。お子さんがまだ読書感想文を書いていないなら、ここに挙げたポイントを参考にアドバイスしてはいかがでしょうか。

審査について

生徒の書いた感想文は、まずそれぞれの学校が回収し、校内で審査し、選ばれた作品は市区町村に集められ、さらに審査。そこで選ばれた作品が都道府県審査会(都道府県コンクール)に掛けられ、さらに中央審査会(全国コンクール)で、入賞作品が選ばれます。9~10月にかけて各都道府県の審査が行われ、11月頃に各地域で表彰式が開かれます。ここで選ばれた作品が中央審査会へ進みます。

第66回(2020年度)のコンクールには、全国の小学校・中学校・高等学校・海外各地の日本人学校など合わせて2万2280校から、207万2885作品が集められました。すごい数です。ちゃんと調べてたわけではありませんが、この手の文芸関連のコンクールとしては、日本最大ではないでしょうか。

作品は、各学校の宿題として集められます。つまり子どもたちはこのコンクールへ半強制的に応募させられているわけです。ほとんどの生徒は、宿題だから仕方なく提出しているだけで、自分の作品が、全国規模のコンクールに応募されていて、ふるいに掛けられていることを認識していないでしょう。私もそうでした。教員から「校内審査を通過しましたよ」と告げらた一部の生徒だけが気付いているという状況です。そういう意味で、応募作品を学校の宿題として集める方式には、問題があるような気がします。

では、このコンクールでは、どのような審査基準で作品が選ばれているのでしょうか。

『第66回 考える読書』では「第66回コンクールのあらまし」と題してコンクール概要がまとめられている。その中で、中央審査委員長の桐畑美登利が、「優れた感想文に共通していること」として、以下の3つを挙げています。

一点目は、本の世界を楽しみ、本にしっかりと向き合えていることである。適書として手にした本を読み、登場人物に共感したり、なりたい自分に出会えたりしている。
二点目は、登場人物の言動を通して作者の思いに触れ、自分自身や自己の置かれている状況を考え、自身の課題解決の糸口を見付たり、自分の考えに背中を押してもらい自信をもって世界を広げている点である。
三点目は、読書から得た感動や思いや考えを、自分の言葉で整理して明確に表現している点である。

『第66回 考える読書』

一点目と三点目は、読書感想文である以上、当然の要素だと思われます。注目したいのは二点目です。「自身の課題解決」「世界を広げている点」という言葉が出てきます。自身の課題解決には、自分の置かれている環境や立場を冷静に分析し、その上で、さしあたって解決すべき課題を抽出することが必要です。さらに世界を広げるには、自分の世界に閉じこもるでのはなく、プラス思考によって自分の可能性や活動範囲を捉え直していかなくてはなりません。

感想文においては、「私語り」といっても、自分の不幸や弱さに拘泥して、内面世界や反社会的な心情を育てる文学的な方向ではなく、自分や世の中の課題解決に貢献し、前向きに行動する視点が求められるということです。親はこうした視点を踏まえて、子供を指導することが求められます。

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