入賞作品に学ぶ読書感想文の書き方 「私語り」から本選びへ

『考える読書』

良い読書感想文の条件。それは、冒頭に「自分の体験」を書くことです。 青少年読書感想文全国コンクール入賞作品を読んで、上手に書くためのポイントを考えました。


小学4年の娘が、夏休みの宿題として出された読書感想文を書いていました。彼女が選んだのは『長くつ下のピッピ』(アストリッド・リンドグレーン・著、岩波少年文庫)。親としてひとこと助言をしたいと思ったものの嫌がられるが目に見えているのでぐっと堪えます。

私は読書感想文が苦手でした。そのため、あらすじや登場人物についての情報をつらつらと書いて原稿用紙を埋めたものです。我ながらつまらないことをしているという意識はあったのですが、他にやり方が思いつきませんでした。そもそも、学校で上手な感想文の書き方を教えられた記憶がありません。これでは仮に求められても、娘に有効な助言を与えられません。

どんな読書感想文が評価されるのか。それを知るために手に取ったのが、青少年読書感想文全国コンクール入賞作品を掲載した『考える読書』(毎日新聞出版)です。 まさに評価された読書感想文の実例集です。『考える読書』 は毎年発行され、2021年4月発行の最新版には、110作品が収録されています。

読書感想文とは「私語り」の文芸である

全国の小・中・高校から集められた応募作品はなんと約200万。その中から選ばれた入賞作だけあって、読ませるものが多くあります。中には感動的な作品もあります。

これらの入賞作品は、私が想像していた読書感想文のイメージと大きく異なっていました。私は、読んだ本についての感想を中心に書くのが読書感想文だと思い込んでいました。

入賞作品では、主役は「私語り」であり、本の内容紹介や感想は、その私語りを引き立てるための脇役に過ぎません。私語りとは、自分の境遇や体験のことです。つまり、読書感想文は、まずもって自分のことを語り、そんな自分が本から感じたこと、学んだことを語る文芸なのです。本の内容を詳しく、あるいは分かりやすく説明することの優先順位は低いのです。

今回は、小学校低学年の受賞作品を分析して、評価される読書感想文を書くためのポイントを考えました。ポイントは以下の4つ。

・自分の体験をまず語る
・本の内容紹介は必要最小限に止める
・主役は自分の体験、本は脇役

・「面白そう」「簡単そう」で本を選ばない

具体例を通して、これらのポイントについて説明します。

切実な体験から書き始める

小学校低学年の部(一年・二年生)で最優秀作品に与えられる内閣総理大臣賞を受賞した「パパからの贈り物」(一年 小山薫)の書き出しはこうです。

 ぼくのパパは6がつにびょうきでてんごくにいきました。もうパパにあえなくなってかなしくてなみだがいっぱい出ました。

「パパからの贈り物」(一年 小山薫)

いきなり衝撃的な事実を提示して読み手の心をつかむことに成功しています。小学校1年生ながら見事な私語りです。

対象書籍は、スーザン・バーレイ『わすれられないおくりもの』(評論社)。1986年に発行された絵本で、物知りのアナグマが死んだことで、森の動物たちがアナグマの教えてくれた知恵や工夫に気付くという内容です。自分の境遇に対して適切な本を選んでいます。

小山さんは、内容を簡潔に紹介しつつ、自分がパパから自転車の乗り方を教えてもらったことや一緒にカブトムシを育てたことなどを振り返ります。そして、もぐらの「おしえてもらったことはおくりもの」という言葉を紹介し、「ぼくはめにみえないおくりものあるということをはじめてしりました」と自分が得た学びを記します。自分の経験を重ねられる本を選び、そこから学び、生きる力に変えていることを、800字以内という文字数制限の中で 分かりやすく表現しています。

次点の文部科学大臣賞を受賞した「地しんの時間と約束の5分」(二年 本多祐実香)は、課題図書のリズ・ガートン スキャンロン他『ながーい5ふんみじかい5ふん』(光村教育図書)の感想文です。同じ5分でも状況によって長く感じたり、短く感じたりすることを、いくつものエピソードを通して伝えるという内容の絵本です。感想文は次のように始まります。

わたしのながーい5分は、あの地しんの5分です。わたしの住む安平町は、おととし、大きな地しんがありました。

「地しんの時間と約束の5分」(二年 本多祐実香)

本多さんは、2018年9月に発生し、震度7を記録した北海道胆振東部地震に被災しました。書き出し以降、地震の状況、実際に揺れたのは15秒だったこと、母が自分と弟に覆いかぶさって守ってくれたこと、陶芸家である母の作品がすべて割れたこと、赤ちゃんの頃、母がおんぶしてろくろを回していた5分間の動画が残っていることなどを書いていきます。長く感じた地震の15秒とあっという間に終わる動画の5分。この体験を本のコンセプトと重ねることで、読書感想文として成立させています。あるいは、地震と家族のことを語るために、本から受け取った体感時間というコンセプトを借りているという見方もできます。

感想文の中で、本の内容について直接言及したのは、終盤に出てくる「時間はこの本の通りいろいろあるんだよね。不思議だね。」の一文のみ。それ以外は、すべて私語りで通し、最後は「陶芸家になるゆめ」を語って締めくくっています。なるほどこういうスタイルの読書感想文もあるのかと感心しました。

これらの受賞作を読むと、読書感想文はまず、「私」の体験を強く押し出すことが重要であり、その体験を照らし出す素材として本を利用するというスタンスが評価されることが分かります。

これらの読書感想文はどちらも、かなり深刻で切実な体験を語っています。誰もがこうした体験を持っているわけではないでしょう。そのような場合どうすればよいのか。入賞作品の中には日常的な体験から書いた読書感想文もあります。

本の内容を詳しく説明する必要はない

毎日新聞社賞を受賞した「おさがりはすてき」(一年 米田壮助)は、7人兄弟の4番目として生まれ、いつも兄から服や靴をもらってきた体験から始まります。

ぼくは、七にんきょうだい。そして、ぼくは、ちょうどまんなかの四ばんめ。おさがりなんてあたりまえ。

「おさがりはすてき」(一年 米田壮助)

続けて、クラスメートが新しい学校の道具を持っていて、自分はおさがり。それでも兄が使ったものをもらえることが「うれしい」と感じています。その後、いきなり本の好きな場面の説明が入ります。

このほんでぼくがいちばんすきなばめんは、男の子がなっちゃんにこえをかけたばめんだ。なっちゃんは、おさがりのものさしをはずかしくてだせなかったけど、男の子がこえをかけてだせるようにたすけたからだ。

「おさがりはすてき」(一年 米田壮助)

対象書籍は、くすのきしげのり・作、北村裕花・絵『おさがり』(東洋館出版社)。姉のおさがりを 恥ずかしく感じるなっちゃんに、先生がおさがりの思い出を話して、物を大切にする心を伝えるという内容です。しかし、米田さんは、あらすじや登場人物について一切説明しません。本を選んだ理由も書きません。自分以外の人が、この本について知らないことなど気にしないところが、すがすがしいほどです。

続けて米田さんは、本を読んで、「おさがりってすてきだ」と再認識したことを語ります。おさがりは思い出であり、宝物であると考え、弟たちにもおさがりをあげたいと言います。米田さんが、兄や姉に憧れると同時に、弟を大切にしている気持ちが伝わります。

米田さんは、おそらく自分のおさがりに対する思いがまずあり、それを書くための素材としてこの本を選んだのでしょう。だから、本の内容に引きずられず、自分の思いを伝えるために必要な部分だけを切り取ることができたのです。そして無駄な説明をいっさいしない。先述の「地しんの時間と約束の5分」もそうでしたが、字数制限のある読書感想文で、自分の思いを明確に表現するには、これぐらいの大胆な書き方が必要だと思います。

※次ページでは、本の選び方、読書感想文の構成を解説しています。

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